椿三十郎 : レヴュー(MOVIE)
(Update:2008/03/06)
【公開】 2007年12月01日
<監督>森田芳光 <原作>山本周五郎
<脚本>菊島隆三・小国英雄・黒澤明 (以上、敬称略)
〔あらすじ〕
不正騒動にゆれる藩内で、それを正そうと立ち上がる9人の若侍たち。彼らは大目付に直訴するが、その大目付こそが不正の中心人物であったがために若侍たちは窮地に立たされる。そこへ偶然にも居合わせた素浪人・椿三十郎が、頼りない若侍たちを見かねて手を貸すことになる。
一枚も二枚も上手の悪者三人組は、主席家老・睦田を監禁し藩政をほぼ掌握、世論をも味方につけてしまう・・・。
ある夜、森の奥の古い社殿で9人の若侍が密談している。
その中の1人(松山ケンイチ)が言う、「次席家老の汚職を城代家老の睦田(藤田まこと)に告げたが意見書をビリビリ」と。そして、当初の手はずどおり、次に大目付 の菊井(西岡徳馬)に話してみると『共に立とう』と答えたと言い、若侍たちは喜びにわく。
そんなところへ浪人・椿三十郎(織田さん)が現れ、「菊井のほうこそ危ない」と。
その間に三十郎の睨んだとおり菊井の手勢に社殿を取り囲まれてしまう始末。「俺に任せろ」三十郎は、ひとり菊井の手勢に挑む。
菊井の懐刀である室戸半兵衛(豊川悦司)は、三十郎の腕を見越し引き揚げるが「士官の道を望むなら俺を訪ねて来い」と。
三十郎の活躍により難を逃れる若侍。「危なっかしくて見ちゃいられない」と、三十郎は若侍たちと行動を共にすることになるが・・・。
〔感想〕
2006年11月12日、東宝スタジオにて行われた製作発表では、主だったキャストが撮影の衣装を身にまとってのご登場。
三十郎を演じる織田さんは、えび茶色染め抜かれた袴すがた。家紋は「「丸に剣酢漿草=まるにけん かたばみ」。この家紋は、黒澤明監督の黒澤家の家紋で、日本一多い姓が使っている紋でもあるそうです。
また今回のリメイク版は、脚本もオリジナルをそのまま使われているそうで、個人的に思うに、やはりオリジナル版の名脚本をラストの立ち合いシーンを除き、ほぼそっくりいじらずに撮影したことが成功への大きなポイントとなった事は間違いないでしょう。
それだけ時を経てもなお色あせることなく輝き続けている脚本のひとつであるんだと思います。
比べては申し訳ないと思いながらも、ついついどこかで比べている(これはいい意味でも)自分がいます。
オリジナル版はリメイク版の公開前と公開後に併せて、レヴューを書き上げる今日までにDVDで5〜6回ほど観ました。(勿論、リメイク版を劇場で観た回数は若干これを上回ります^^;)
脚本が同じ分、オリジナルを観ることで、逆に織田さんが演じられた「織田三十郎」の映像が脳裏によみがえって来たり、又、DVD発売まで待てない劇場での映像をよみがえらせるためにオリジナルに手が伸びたり・・・ いい意味で私にとっては微妙な関係の二つの作品です。
日本映画史上、最も愛されたヒーローとまで特筆される「椿三十郎」。
織田さんも今回演じられるうえでオリジリナルをご覧になり、その上で自分が演じる「三十郎」を模索しながらも作り上げて魂を込められた事は間違いないでしょう。
例えが難しいですが、私も織田さんと少しでも近い土俵に上がりたかった、少しでも似た気持ちをもって臨みたかった、自分が観て感じたオリジナル「三十郎」を織田さんがどぉ感じて挑んでくださったのか、そんな思いから今回は是非、オリジナルを観てから織田さん演じる「三十郎」に会いたかった・・・、そぉ思っていました。
織田さんも無精ひげを生やし、本格的な殺陣を駆使した時代劇の中で華麗な剣さばきを披露され、芯を外すことなく三十郎の魅力を如何なく大きなスクリーンの中で出しきってくださっています。
大目付・菊井の手のものに1人で立ち向かう三十郎。刀を持つ腕の筋肉にメロメロになったり、20人斬りシーンでの胸元だったり・・・ にも目は泳ぎ、何度見ても不謹慎ながらもニンマリとしている自分がいます^^;
中村玉緒さん演じる城代家老夫人が、劇中をしっかりと固めてくださっています。おっとりとした話し方をはじめ、柔らかな物腰から雰囲気にいたるまで、やはり本業は昨今のバラエティではない、ことを物語っています。
この奥方に「乱暴はいけませんよ」と三十郎が諭される場面。母のような年齢の女性に諭され、シュンとしてしまう三十郎が、またキュート(笑)
「あなたは、なんだか、ギラギラしすぎてますね」
「ギラギラ?」
「そう、抜き身みたいに」
「抜き身」
「あなたは、鞘の無い刀みたいな人。よぉく斬れます。 ……でも、ほんとにいい刀は鞘に入ってるもんですよ」
この奥方と椿三十郎との一連のやりとり、穏やかなムードが漂いながらも或る意味、二人の真剣勝負の場面だとも思えます。
この場面にくるとどぉしても織田さん演じる三十郎に、今一つギラギラさ加減が感じられずにいましたが、改めて考えるに、あの20人斬りのシーンへの布石なのかもしれません。
ここまででは、どちらかといえば、ギラギラと言うよりも爽やかな雰囲気の方が勝っているような、そんな織田三十郎の印象が強かったです。
また別場面で、奥方から「あなたのお名前は?」
「名前ですか・・・(椿屋敷から見える椿を眺めながら) 私の名前は、椿、三十郎。もうすぐ四十郎ですけど・・・」
「面白いお方」
「いやどぉも・・・」
このシーンで三十郎の飄々としたご愛嬌が表わされています。
こんなにもユーモアが溢れているのに腕もたつ、そして巧妙な駆け引きができる知恵も持つ三十郎、心底格好いい男です。
こぉいぅ幾つかのシーンを思い出すだけでも笑ってしまう、そんな三十郎と奥方とのシーンが、特に心に残ります。
正反対の人間でもあるようなこの二人。でも、どこかお互いを認め合っているような・・・ そんな部分が随所に出てきます。
危ないぐらいにギラギラしている三十郎には奥方のような上品な品格は備わっておりません。立派すぎるほどの奥方の前では、なんとも居心地が悪るそうな三十郎。
この二人の対比は実にシンプルなものだと思います。でも、このお互いにないものをもっている・・・、そんな自分には得ることのできない魅力のような、そぉいぅものに一目置いて認めてあっている二人。
奥方らが、黒藤邸に攻め込む合図を赤い椿がいいだの、白い椿がいいだのと、緊張感のみじんもない春の陽気のような、のほほぉんとした事を話している間の三十郎。イライラさを隠せず思わず碁笥の上蓋をなぞったり、蓋を開けたり・・・。
また、「あの人はイイ人だ!」の部分でのポイントになった、奥方らのために三十郎が踏み台になる場面は最高です。
また、佐々木蔵之助さん演じる押入れ侍?(笑)も、実にいい味を出しています。加えて、悪者三人組も森田監督の味付けが功を奏してか、それぞれの特徴がいい味加減に施されています。
軽快な演出のもと、コミカルにストーリーが展開していきます。
三十郎と室戸・・・
豊川さん演じる室戸半兵衛。三十郎と室戸の年齢差が若干気になる部分でもあります。どちらが年上・年下??
オリジナルの仲代さんのイメージが強烈ですのでやはり、豊川さんも殊のほか神経を遣ったのでは?と推察します。
三十郎と室戸が絡むシーンでの存在感はさすが、と思わせてくれます。ただ三十郎と絡んでいない、また悪者三人組との絡みなどの部分でのクールさを尚一層追及しても・・・ 素人考えですが、そんな事を感じたりもしました。
三十郎の腕を見越して引き揚げの命令を出すときの抑揚や、悪者三人組の算段に姿を現すときの「室戸です」の部分、心なしか「ムロートです」という間延びした部分が、ひっかかったりもしていました、すみません。
三十郎と若侍たちとの絡み・・・
コミカルに仕上げている事で、アラが少なくなっているような、そんな風に思いました。やはり、脚本の上手さ、そして森田監督の味付けの上手さでカヴァーできているように思えます。
最後の立ち合いシーン。
二人の決闘を見守っている世間知らずな若者たちと、斬るか斬られるかの厳しい現実をひとりで生き抜いてきた三十郎。そして、その三十郎と向かい合う室戸。
この画面手前と画面奥との生き様の温度差・・・。
自分の居場所がココではないことを分かっている三十郎。そして自分が抜き身であることを分かっていながらも、鞘には納まりきれない三十郎。
最後の最後別れ際、悲しい目をした子犬みたいに後を追ってくる若侍に「お前らはちゃんと鞘に入っておけ」、そして室戸に自身を重ねつつも自分の道を歩き出す三十郎。このラストの三十郎の後姿は何度見ても切なくて切なくて・・・絶品、素晴らしいエンディングです。
オリジナルは、黒澤監督の「用心棒」続編という位置づけです。その「用心棒」という作品では、主人公は「桑畑三十郎」と名乗ります。その「桑畑三十郎」に似せた今回の「椿三十郎」ということになりますが、「用心棒」も今回のリメイク版の公開前に予習として観た一人としては、断然にこの「椿三十郎」の方が人間味溢れる三十郎をユーモアと笑いで包んでくれていると思います。
今回のリメイク版を観て是非オリジナルも観てみたい、そぉ思った新たなファンも多いことでしょう。大きな役割を果たした今回の「椿三十郎」だと思います。
いろいろな演技の対比は勿論のこと、モノクロとカラーの映像も然り、効果音の使い方などなど、挙げればキリがありません。それぞれの楽しみ方で、奥深さを感じるのもオツな事だと思います。
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