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 ハイビジョン特集 黒澤明に挑む 映画監督・森田芳光「椿三十郎」を撮る

O/A : 2007.09.10(月)<BSハイビジョン(BS3)> &(再放送 10.28<NHK総合>

だいたい、こんな内容だったということで簡単ですが纏めてみました。
<以下、織田さんの言葉は青字、森田監督の言葉は茶・明朝字体、そして、ナレーション(今回は黒澤監督「乱」「夢」に出演された原田美枝子さん)は赤字、で表記> 聞き手は、中川ディレクター。


スタッフが囲むなかセットへと向かう三十郎に扮した織田さんの後ろ姿をカメラはとらえながら、ここでナレーション:1人の映画監督が大きな壁に挑んでいます。森田芳光さん、57歳。 こんな場面から番組が始まりました。
そして織田さんが歩く、その先には現場でキャスト陣を指揮している森田芳光監督が・・・。

故・黒澤監督のお写真が写り、森田さんが乗りこえようとしているのは、巨匠・黒澤明監督の作品【椿三十郎】。

1962年の「椿三十郎」の映像、今から45年前、黒澤監督が撮影した痛快アクション時代劇です。ラストの決闘シーンは、その後の時代劇を変えたと言われる名作です。


去年行われた「製作発表」の模様が流れ、無謀な挑戦ではないか、あれ以上の映画になるのか、など様々な声が森田さんを取り巻きました。

そして、製作発表時の森田監督の映像「普通の映画作りと違うのは、既に教科書があるんでその教科書にのっとって僕らが応用問題を解いていくような感じ。 ・・・ 前作を基本に、また日本映画の歴史を基本に、その流れを僕らが汲んで現在できる最高の作品を作ろうと日夜努力しています。

織田三十郎の撮影シーンと、三船さん三十郎の夫々の同じシーンが幾つか流れます・・・ 同じシナリオであるがゆえに大きな重圧。

黒澤監督が描いたこと、今描かなければならないこと、そんな葛藤のなかにいる森田監督・・・

ここで画面には、黒澤明に挑む 映画監督・森田芳光 椿三十郎を撮る のタイトルバック


今まで殆どTVに出てこなかった監督生活26年の森田監督。でも最大の挑戦である今回の「椿三十郎」については語りたいということで、初めてのロング・インタヴュー。

■〜映画「椿三十郎」とは〜

エンターティメントとは何かと聞かれますけど、どんな人でも楽しめる、深層心理に訴えかける映画のリズム感とか面白さってあると思う。それが凝縮されていて点が線になっているから超娯楽大作の原点だと思う。僕は「椿三十郎」が本当にやりたかった。どぉして僕のところへ来ないのかなぁって、ずっと思ってた(笑)


■〜「椿三十郎」のリメイク監督に決まって〜

「いいところはドンドン取り入れて、そしてもっと違うことが出来ると思うときはドンドンやってみよう、みたいな(笑) 最初は塗り絵みたいに、なぞるくらいの感じでいいんじゃないかと思ってました。そのなぞり方が、自分が違うなと思ったら違う絵を描けばいいんですね。

聞き手から、「わりと柔軟に描けたんですね?」と問いかけられると・・・

「う〜ん(と腕組みをして)「椿三十郎」を経験したスタッフじゃないと分からないと思うんだけれど、凄い重圧があるんですよ、歴史の重圧っていうのかな、日本映画の重圧っていうのかな。

映画監督・黒澤明さんは俳優である私たちにとって、神様のような存在です。現場での緊張感は、一生忘れられません。

そして映画「影武者」の撮影の1コマが流れます。黒澤監督「自分がやるときまで、自分のことだけ考えて突っ立っているんだよ。それが一番いけないんだよ。ひとつひとつクローズアップして撮ってるわけじゃないよ、全部撮ってるんだから。全部がいつ如何なるときも充実してなかったら、そのカットは死んじゃうんだ」

当時51歳の黒澤監督の作品「椿三十郎」の映像が「あらすじを紹介しましょう」のナレーションのもとに流れます。
舞台は江戸時代のとある藩。上役の汚職を暴きだそうと集まった9人の若侍たち。しかし実は黒幕の罠にはめられていました。未熟な若侍の前に登場した浪人・三十郎。黒幕に対して共に闘うべく立ち上がる決意をします。捕らわれの身となった上代家老を救いだすために三十郎は様々な知恵を巡らします。・・・ ついに上代家老の居所を見つけた三十郎と若侍は、いったいどんな計略で救いだすのか。知恵と力で黒幕に立ち向かう痛快アクション時代劇です。


▼ 森田芳光監督の挑戦 〜名作の台本〜

黒澤監督が中心となって書いた脚本、セリフの一言一句をも変えていない。普通、リメイクといえば台本を書き直し、演出プランを練り直すものなのに何故・・・

現代劇だったら社会性とか通年性とかをアレンジしていかなきゃいけないけれど、時代劇に関しては同じだと思ったから。上下関係とか横の関係というひとつのシステム・社会機構というものは通じると思ったから、というのもあるし、人間的にも通じているものもある。シナリオが完璧であれば、それをその通りやった方がいいんじゃないかと思う。その方が「椿三十郎」を知っている人も楽しめるし、黒澤監督を知らない人も楽しめる。「椿三十郎」を全く知らない人も楽しめる。


▼ 森田芳光監督の挑戦 〜主役・椿三十郎〜

黒澤作品の主役は三船敏郎さん。あらゆるタイプの時代劇に精通した大スターでした。45年の歳月を経て今回、森田監督が主役に選んだのが織田裕二さんです。(このあたりで殺陣の指導を受ける、カツラは付けずに衣装だけは三十郎の織田さん映像が流れます)

(汗ビッショリの織田さん映像が流れるなか)クランク・インの2ヶ月前、殺陣の練習をする織田さんの姿がありました。実は織田さんは、時代劇の主演は初めてです。森田監督の狙いは、これまで織田さんが演じてきた現代のヒーロー像を「椿三十郎」に投影させ、若い人たちに感銘を与える映画にしたいというものです。

正直言って、織田裕二が主役でやってくんなかったら、どぉなんだろうなぁ? やってなかったかもしれませんね。 僕は今、織田裕二が日本代表だと思ってます、正直言って。だからその織田裕二が、あのときの三船さんの役をやってくれなければ、胸張ってこの映画撮れないと思ったんです、これは直感なんですけれど。自分が演出して、織田裕二が三船さんのあの「椿三十郎」をやるっていうことは、全然違和感なかったですね、自分で夢で何度もみてましたけど。

(三十郎姿の織田さん)「これは、やる、はいやる!って言ってから実は暫くたってから、インするまでの間に襲ってきましたね、突然 ・・・ ぅえっ! こぉれは経験なかったですね、そぉいぅプレッシャーは。リメイクっていうことで、もう前の作品は名作ですから、絶対不利なんですよ、コッチは(笑) でも、その不利ななかでも、うーん、やってやるぞっていうエネルギーが、ウワッってありましたから現場に、満ちてましたから。それは尊敬しながら、リスペクトしながら、なんか、俺たちも頑張ろうっていう感じの力があったんで・・・ やれたんじゃないですかね


▼ 森田芳光監督の挑戦 〜9人の若侍〜

三十郎と並び重要な役どころの若侍たち。黒澤作品では当時の個性あふれる若手スターを起用していましたが、今回の作品では・・・

若侍たちを指導する森田監督。若侍たちに、「カメラが見えないときは自分がダブっているから特に気をつけて! カメラが見えないと自分が隠れているわけだから損するよ!

映画俳優の基本、立ち位置にダメだしです。

森田監督が若侍衆に指導しているのを真剣な眼差しで見つめている織田さん。デビュー当時の自分を思い出したりもしていたのかも・・・

森田監督は、リーダー井坂役・松山ケンイチさん以外の8人を無名で若手の俳優たちからオーディションで選びました。黒澤作品と一線を画したいとの意向が反映されています。

オーディションは大変でした。この映画の一番難しいところだったかもしれないですね。打撃練習も投球練習もしてない選手を選ぶようなもんですからね。試合を観ているわけではないので、その場その場の人間的な感性で選んでいくっていう。

僕のキャスティングのポイントは、人間的な感性が一番大事。その人がどぉいぅような人間であって、どのような性格をしているか、そして役が感性に合っているかどぅか。芝居の技術はさほどなくても結構うまくいけるもの。


若侍たち、一人一人に森田監督からメモ風なカードをもらったそうで、そこには『役柄』『(役柄の)性格』『三十郎に対しての賛成派・反対派・中間派?』『クセ』が書かれています。

織田くんだけが面白かった、織田くんだけが凄かった、という映画には絶対したくない。全員が凄かった、全員が面白かった、それが僕がいつも、この「椿三十郎」に限らず、自分の中で心がけているつもりです。(このあたりでカメラアングルが変わって、森田監督の背後には織田三十郎の凛々しいお写真が・・・)有機物というものは、何か欠けるとそれが成立しない。作品というのは、ひとつが突出していてもダメなんですよ。

全員野球を目指す森田監督。主役の織田裕二さんには何を求めるのでしょうか?

ここで、織田さんのセリフ回しで・・・ 「この子、はやく返そうぜ」という箇所が流れます。

カット、違うな。

三十郎が若侍をたしなめて、意外な打開策を打ち出すシーン

おーい、この子早く返そうぜという感じなんだよね」と言いながら織田さんに歩み寄る森田監督

監督の指導を受けて、何度かセリフを言い直してみる織田さん

セリフの言い回しにどこまで現代を感じさせるか

長屋へ返すのよ

おー いいじゃん

了解、了解、了解

2人が出した結論は、若侍の気持ちを察しながらの言い回しでした

ここで、実際に出来あがった、このシーンが
森田監督の向かって右後ろに三船さん演じる三十郎が、そして左後ろには織田さん演じる三十郎の画像が映し出された状態・・・ モノクロな三船さんは勿論のこと、織田さん演じる三十郎もキリッとした目ヂカラが、そのたった一つの画像だけでも、こんなにもワクワクさせてくれるなんて、本編が待ちきれません。

若侍が9人いて、それぞれの適性とか性格とか、そぉいぅのを分かった三十郎でありたかったんですよ、僕は。

聞き手「要するに一人一人が話し方が違う?」

そぉそぉそぉ。要するに三十郎は分かってるんだ、と。こいつはこぉ来る、こいつは俺に反対だな、こいつは俺に賛成だ、こいつは俺に対して中間派だ、と。それが分かる三十郎で欲しかった、だからあぁいう話し方っていうか・・・ また今の時代にやっぱり上にたつ人間はそぉじゃなきゃいけないと思うしね。

聞き手「ある種、リーダー・シップみたいなもんかと」

そぉそぉ、だから三船さんのあの役のリーダー・シップであった時代と、織田くんがリーダー・シップをとれる時代で今とは、これは全然違うわけですよ。どこかで僕は主役を選んだという時点でもぉ意味性を感じているわけですよ。織田くんのキャラクター、それが椿三十郎、それが今のリーダー・シップ、それが僕の考え方だから。それがエンターティメントのなかにも意味づけられているわけですよね。

[シーン 12後半] 三船さん演じる三十郎の映像と台本部分が映る
リーダー・シップ、この言葉が森田さんの演出のカギでした。 ・・・ 強い口調で言い放つ絶対的なリーダーの黒澤版「三十郎」。

映像が織田さん演じる三十郎映像へと切り替わり
さて森田版は・・・ 一人一人の目を見ながら話しかけます。 ・・・ 反論にもしっかりリアクション、説得力でチームを纏めていく森田版「三十郎」です。


画面はまた、若侍、そして織田さんたちとの撮影シーンに 森田監督がリメイクに挑んだのには大きな理由がありました。実はこの「椿三十郎」が映画監督を志す原点だったのです。

ここからは、森田監督の生い立ちが語られていきます。1950年、東京都渋谷に生まれました ・・・ (中略) 森田監督は小学5年の時、運命の作品に出会います。それが黒澤明監督の「椿三十郎」でした。

今まで僕が観ていた時代劇とちょっと違ってた感じがしていて、子供ながらに面白い場面がたくさんあって。へぇ〜〜〜、どぉして同じ映画でこぉも違うのかという意識をしたのが、その監督の名前を覚えるっていう、黒澤さんっていう名前を覚えて子供ながらに、映画と監督ってこぉいぅ感じなのかなぁ。僕は人によく言うんですけど、映画館ていうの人に会いに行くところだと思うんですよね。自分の人生ってなかなか、短い時間のなかでイロンナ人と出会うっていう事は、普通の人はなかなか難しいと思うんですよね。だけど映画館に行けば自分が経験できないような事とか、いい人とか悪い人とか、そぉいぅ人たちと会える、と。そぉいう意味では「椿三十郎」というのは、三船さんがやっていた「椿三十郎」を始めとしてみんな生き生きとしていた。僕らがタイムスリップして、その「椿三十郎」の時代のいろんな人に会ったという感じが凄くしたんです。

次に画面に映るのは、大学時代に友人たちと8ミリを廻し、「映画」というタイトルでも主演もしている森田監督、そして31歳の時にメジャーデビュー ・・・ (中略)

人間をただ駒として動かすのは嫌なんですよ。人間は人間として動かしたいっていうか・・・ 映画館には人に会いに行くから、その主役に関連する人から、ただ通行人でひと言しゃべる人にも感銘する人がいるわけじゃないですか。僕は人間がみな生きている映画が好きだし、それが映画だと思っているから、ただストーリーが面白かっただけじゃ面白くない。そのストーリーの中でどうやって皆がどういう動きをしてどうやって生きてどうやって死んでとか、そぉいぅ事が僕は好きだから、そぉいぅ映画を作りたいと思っているから、どぉしても一人一人、邪魔だと言われようが細かいところに神経を使います。


▼ 森田芳光監督の挑戦 〜三十郎と室戸半兵衛〜

45年前、黒澤監督は強烈な悪役を生み出しました。江戸時代、とある藩で起きた騒動の黒幕、その懐刀である室戸半兵衛。
(45年前の「椿三十郎」が流れます)
演じたのは仲代達矢さん。三十郎が若侍を率いている事を知らずに、その腕を見込んで仲間に引き入れようとします。

(画面は変わって、森田監督を挟んで豊川悦司さん、そして織田さんが打ち合わせている映像)
森田監督は室戸役に豊川悦司さんをキャスティング。前作とは異なるティストの悪役を作り出したかったからです。

(豊川さん演じる室戸と織田三十郎の撮影シーンが流れる)
三十郎と室戸の利害、立場は正反対です。若侍につく三十郎、黒幕につく室戸。

(台本が映る・・・)
これは、室戸と三十郎が密会するシーンです。
[シーン51] 仲代さん演じる室戸と三船さん演じる三十郎の、そのシーンの映像
黒澤監督は、強面の表情に微妙な台詞回しで室戸の傲慢さを表現しています。

(変わって、森田版の同じシーン)
それに対して森田監督は、室戸半兵衛の、藩に仕えながらも持っている1匹狼としての力を、なんと笑顔で表現したいと考えました。

自らに絶対の自信をもつ室戸、それゆえに強い友情を三十郎に感じていると解釈したのです。 (豊川さんと織田さん、2人の撮影シーンが映ります)

室戸半兵衛の衣装姿で豊川さん:「(今のシーンの事で)キスでもしそうな勢いでしたからね。でも僕はあぁいぅの結構あるんですよ。三十郎と室戸のシーンて、ツー(2)アップが凄く多くて、その時にも監督は、くっついてくれ、くっついてくれぇって言ってて。そぉいぅ意味では、或いはもしかしたら三十郎の過去っていうのが室戸みたいに1つの大きな野望をもって、やったんだけど失敗をして1匹狼の道を歩き出したのかもしれない、っていう、この映画のシナリオ以前、或いはシナリオ以後の部分ていうのは、よくこの2人のキャラクターを想像させるところがあると思うんです。

(先ほどに続いて、豊川さんと織田さんの出来上がったシーン)
先ほどの黒澤版と同じシーンです。 ・・・ 全編を通じて笑顔を絶やさない室戸、この三十郎への友情が2人のその後の運命を大きく左右します。

僕がまず感じたのは、お互い力を認め合っているということです。力を認め合ってるんだけれども生き方が違う。1人は体制側を馬鹿にしながらもついていき、その体制側を後で裏返して自分が天下をとろうと。もう1人は体制側を初めからきって、自分が自由になる。相手の力は認めている。だけどお前とは生き方が違うよ、と。力の存在が友情を支えているというか、もしお互いの力が違ったら、あの2人には友情は芽生えなかったでしょうね。力の尊敬というか、お前よくあの立場でいられるな、みたいな、そぉいぅ立場の違いによる相手、もしかして自分が考え方が違ったら自分が他の椿の立場だったり、室戸の立場になるっていう、逆転するというか、そぉいう事でしょうね。


▼ 森田芳光監督の挑戦 〜ベテラン演じる奥方〜

黒澤監督は、さらわれた上代家老の奥方役に思いがけない起用をしました。戦前戦中、銀幕の女王として名を馳せた入江たか子さんです。当時の入江さんは、体を患い、暫く女優を引退していました。黒澤監督は入江さんを是非にと口説き復帰させたのです。

今回森田監督が選んだのは、ベテラン女優・中村玉緒さん。映画出演は14年ぶりになります。

(森田監督の演技指導を受けている玉緒さんの映像) 「今の若い人にとっての玉緒さんっていうのは、バラエテイに出てて、ヘンなおかあさんみたいな感じで思われてるかもしれないけど、僕はやっぱり大映の玉緒さんの女優時代、観てますからね。もぉそこは強いですね。自信をもってキャスティングしました。

(懐かしい中村玉緒さんの映画出演 「大菩薩峠」市川雷蔵さんとのシーン)
家老奥方の衣装姿で中村玉緒さん:「私は映画女優、映画の方からスタートさせて頂きましたでしょ、でも14年ぶりというかご縁がなくて森田監督からこの役をと言っていただいて、本当に天にも昇る思いで。

聞き手「久しぶりに入ってこられてこの現場っていうのは・・・」

中村玉緒さん:「現場はやっぱり同じでした。そのぐらい皆さんの熱意は昔とひとつも変わらないんですね。

僕はキャスティングっていうのは非常にプライベートなところから発想する。この女の人は誰と付き合ってるとか、この男の人は誰と付き合っている、から発想するんですよ、ヘンなやり方ですけどね。中村玉緒さんて勝新太郎さんと結婚したでしょ。勝新太郎さんの良さを分かってる女っていうのは、やっぱり、この役ピッタリと思いませんか?

(中村さん演じる家老奥方と、織田三十郎のシーンが流れ)
ユーモア溢れる有名なシーンもありますが、ここでは・・・ 

人間の本質をわきまえた女っていう事かなぁ。三十郎の良さも分かんなきゃいけない女でしょ、だって。ひと目でこの人に任していいと思った女ですからね。だって着てるものはボロだし、訳のわかんない事いって・・・ 普通だったら、汚い、なによこの人っていうじゃないですか。だって上流階級の奥さんなんでしょ、結局は。それが三十郎の良さが分かるっていう事は、それなりの人間の見方ができる人じゃなきゃダメじゃないですか。それはもぉ玉緒さんですよね。


▼ 森田芳光監督の挑戦 〜若侍を育てる〜

撮影が始まってひと月半。オーディションで若い俳優を選び、敢えて起用した森田監督の想いをスタッフや織田さんがキッチリと受け止めている事をこの日、目の当たりにしました。

[シーン 27] 若侍が黒幕の屋敷からの報告を三船さん演じる三十郎がにぎりめしを食べながら・・・ のシーン
若侍が黒幕の屋敷に偵察にいき、その報告をする場面です。1カットの中で若侍の緊張感溢れるセリフのやりとりが続きます。

(森田版若侍たちが映り)
森田版でもこのシーンはやはり芝居をきりません。動きよりもセリフのやり取りで黒幕との緊張感を出して欲しいと森田さんは要求しました。

(↑の撮影シーンが流れます、ここには織田三十郎もいます・・・ 若侍の1人がセリフを)
セリフを噛んでしまいました。
(監督)富川くん、大丈夫?
(富川)はい、すいません、大丈夫です(ここで織田さんが、富川くんに声をかけて、ハッキリとみたいな感じを伝えているふうです)
後から登場する織田さんが声をかけます
テイク 2 ・・・ 何回か撮りますがうまくいきません。
(監督)ちょっと怖がってるな
(インタヴュー、私服姿の富川さん: 周りの空気とかドンドンドンドン重たくなってくわけですよ。それを肌で感じるから、どぉしよう・・ 次で決めないと、と思うとドンドン焦っていって)
そして又撮影のシーンに 
NGは10回を超えました。森田監督は怒りません。
(森田監督、織田さんも励ましているふうです)
織田さんもスタッフも怒りません。若い力を映画に取り込みたいとの思いからです。
(監督)ダメなの?(富川くんに)
富川くんの答え(聞きとれません)に、織田さんの笑顔。
(織田さん)もう一回やってみて
(監督)今度やったら代えるよ
富川くんと向かい合っている織田さんの口元がほころび、笑顔。
(監督)一回リラックスしよう(これは、他の若侍たちに)

撮影に戻ります・・・
富川くんはOK! でも続いた別の若侍が・・・NG 
セットの陰にいる織田さんの笑い声が聞こえてきます

黒澤版を乗り越えられるかどうかは自分たちの演技次第。その思いが若い俳優たちに大きくのしかかります。
連鎖反応なのか、1人ができて、今度は次の1人、そして又次が・・・ そんな繰り返しの様子。
(監督)もう行け、50回ぐらい。(若侍たちのところに駆け寄って)時間はたっぷりあるしフィルムもたっぷりあるからいくらでもやろう。ずっと昼間だしね。

とうとうフィルムも交換することになりました。
テイク 22 ・・・ いいよいいよ、今度は大丈夫か!
最後に三十郎が登場・・・
ここで監督のカット!の声。若侍たちも拍手
若侍とともに黒澤映画を乗り越える、監督の信念がいきわたっていました。

インタヴュー、私服姿の富川くん: いいシーンを撮るまでは、いくらでも撮るからと。その言葉が心強かったんで、それから何回か重ねてようやく無事終わったんですけど、大変な道のりでしたね、ほんとに

インタヴュー、私服姿の一太郎くん: うまく出来ない時とか、肩ポォンとかやって、『一太郎、私生活大丈夫か?』とか、私生活は大丈夫です、『随分お金かかってるからな、お前の私生活、無駄にすんなよ』とか言われたリとか。いいお父さんみたいな、私生活までも気にしてくれるというか

ひとりひとりは簡単なんですよね、ひとりひとりのキャラクター作ったり、喋り方を作ったりするのは簡単なんだけど。いざ一緒になると個人的にライバル意識っていうのは凄くあるし、且つ自分が迷惑かけちゃいけないっていう、特に長いカットだと、それがあるから実際の精神性が出せるか出せないかっていうのが・・・ 葛藤があるんですよね。物理的な心配ばっかりしちゃう。そこらへんが難しい。オーディションで選んで自分が選んだ人間だから、僕もかわいいし若侍たちが、だからそのつもりでやってますけどね。


▼ 森田芳光監督の挑戦 〜白黒からカラー〜

過去の作品をリメイクするとき、白黒からカラーへの変化は常に監督を悩ませます。森田監督が、数あるシーンの中で特に心を砕いたのが、屋敷の庭を彩る椿の色でした。

(黒澤版 三十郎が自分の名前を名乗るシーンが映ります)
黒澤版のこのシーン。白黒画面では黒く映る赤い椿。黒澤監督は、それでも赤い色を感じられるよう試行錯誤を繰り返しました。

黒澤監督「椿三十郎」美術小道具の神保明治さん 「キャメラマンからそこに居たもの全てに、そこの黒を丁寧に白の、真っ白のやつですからねぇ、作ったのは、その椿は。それを全部、色を綺麗に塗って。例えば、ポスター柄とか、合成黒、墨汁って札に書いて枝に付けたわけです。それをすぐ撮影したわけですよ」

聞き手「黒でもいろんな色の黒があったっていう事ですか?」

黒澤監督「椿三十郎」美術小道具の神保明治さん 「持ってったんですよ、それを決めるのに。決めきれない」

結局、黒澤監督が選んだのは様々な黒を合成した色でした。監督自ら参加して、毎日新しい椿に取り替えて飾り付け撮影したそうです。

画面いっぱいに映る、庭の椿の映像が映ります
黒澤版の椿は、モノクロで赤を感じさせるという課題を見事に克服しました。

カラー版の椿が画面に映ります
森田監督は、椿の色が観客の心に染み入るようにして欲しい、とスタッフに注文しました。美術を担当した小川冨美夫さんです。(小川さんが映ります)

黒澤版では2万個以上も用意された椿。今回もそれに負けない数を用意し、丁寧に飾り付けました。赤い椿は特別に花びらの色を三つの染料で染め、二日間かけてより自然な色に近い赤を目指しました。さらに森田監督のアイディアで、赤と白の混ざった、まだら椿も登場します。黒澤版より種類が増えた今回の椿。一本一本の花の出来上がりがシビアに問われました。

森田版「椿三十郎」美術担当の小川さん 「カラーになると欠点がどぉしても見えがちだっていうのはありますよね。色も、それからトーンとか、ライティングとか全てに関して目立つっていうことはありますね。白黒ですと逃げていって見過ごしてしまうところあるんですけど、カラーですとどぉしても僕らは視覚人間ですから、色とかモノとかがハッキリ色で区別する、感覚が養われてますから、それはとっても大変ですね」

自然な色に仕上がった椿をどのような色調な画面に定着させるのか、撮影を担当した浜田毅カメラマンは頭を悩ませたといいます。 黒澤版を担当したカメラマンに負けたくないと考えたからです。

森田版「椿三十郎」撮影担当の浜田さん 「モノクロであの映画は色を想像させてくれたと思うんですよね。みんなの中には赤い椿の印象、白い椿の印象、まっ白は白としてあるんですけど。それを色としてみんなのお客さんに残ってる、今度おれたちは、それを具体として見せないといけないから、お客の想像力じゃなくて僕らの想像力を試されるのかな、なんていう気はしますけどね」

織田三十郎が庭の椿に目をやる映像
淡い色調に映える赤、スタッフの思いがこもった見事なシーンです。
織田三十郎のセリフ:私の名は・・・


▼ 森田芳光監督の挑戦 〜ひらめき@ 決めポーズ〜

現代の息吹を感じさせたいという森田監督。それは、撮影現場でのひらめきや発想を大切にする事からも生まれます。
ここで撮影の打ち合わせ中の森田監督がガッツポーズの映像
何故かガッツポーズ。

黒澤版の映像が流れます
この時の撮影は、[シーン12番]。馬草小屋に逃げてきた腰元に対し、敵をさぐるため再び戻るよう説得する場面です。

森田版の同じシーンの撮影映像
テストを繰り返す森田監督。
(監督)それで、その小磯が立った後の決めポーズがありますね、決めポーズ(そぉ言いながら森田監督、ガッツポーズ)
決めポーズ
(監督が小磯に)ひと息はくぐらいで・・
監督の仕草はコレですね
そして出来上がった映像が流れ、では、ひらめいた結果をどうぞ
小磯のガッツポーズの映像
このポーズ、意外なところでも再び登場します。


▼ 森田芳光監督の挑戦 〜ひらめきA 三悪人〜

黒澤版の三悪人・竹林、菊井、黒藤役の三人の画。
殺陣のシーンと共に室内での人間模様が魅力の「椿三十郎」。何度も登場し、存在感を放つ三人の
(このあたりから森田版、菊井役の西岡徳馬さんと打ち合わせする森田監督の映像が)
黒澤演出の真骨頂だと森田監督は考えています。
(ここからは黒藤役の小林稔持さんが)
時代劇にありがちなステレオタイプの悪人像ではなく、森田監督は現代にも居そうな人間臭い黒幕を
(ここからは竹林役の風間杜夫さんのシーン)
描きたいと考えました。森田監督、腕の見せ所ですね。

僕は黒澤作品、面白かったですよ、三人いるだけで。だからそれを今の三人でも絶対できると思って、それで自分なりの個性を、それこそキャスティングからつけて、例えば稔持さんには、ちょっとホクロをつけてもらったりとか、西岡さんはちょっと高血圧ぎみで煮干をボリボリ噛んでもらって、で風間さん、心臓病でフッとチクチクするとか。でもそれが、あの狭い空間でも弾けた面白さがでれば

聞き手「弾けて?」

弾けてると思いますよ。

弾けた三人の演技、ほんのサワリをご覧下さい
ここで三悪人のシーンが少し流れます
小道具も重要な演出です。しゃがんだり立ったり、室内なのに動きを激しく。


▼ 森田芳光監督の挑戦 〜究極のひらめき〜

番組最初の映像と同じ、織田さんがスタッフの中を歩いて現場へ・・・
森田監督は「椿三十郎」をリメイクする前に50回は観たといいます。黒澤版と同じ台本で撮ると決めたゆえの様々な悩みがありました。その中で撮影前日までどぉしても答えが出なかったのは、[シーン74番]。上代家老をどのように救い出すのかを相談している場面です。

黒澤版の映像が流れます
奥方たちののんきな発言に苛立つ三十郎。黒澤監督の演出は、画面の片隅でふすまの文字をなぞらせる、というものでした。

森田監督と織田三十郎、床の間あたりに腰を落として何やら喋っている映像。
野趣あふれる三船敏郎ならではの演技が印象的なこの場面。
碁笥(碁石いれ?)が大写しになって、しきりに森田監督と織田さん、打ち合わせ
自分ならではの演出、そして織田裕二ならではの演技があるのではないか。森田監督は、ずっと悩み続けていたといいます。

森田版「椿三十郎」監督補の杉山さん 「やっぱり来たなって思いましたよ。僕らもどぉして、どぉいぅ風にするのかな。黒澤明の時のあの、三船さんがこぉやって芝居を・・・ あれを上回る・・ どぉすんのかなって」

やっぱり気になっていたんですよ。碁盤が置いてあるけど何にも使ってないんじゃないかと。前の作品では碁盤つかったろうって、座らせてただろうと。それともぉひとつは、赤い椿でも白い椿でもいいじゃないかって言って、前の作品だと、ふすまの字を三十郎、ふわってやりますけど、あれに代わるものっていうのは何かなっていう事。そのふたつがミックスして

ここで織田三十郎と打ち合わせながら演技している織田さんの映像
いったい森田監督は、この碁盤からどのようなアイディアを思いついて演出に取り入れたのか
織田三十郎が碁笥のフタを指でなぞっているふう、それを真剣なまなざしで見つめる森田監督
あなたならどぉ思いますか?

この碁盤のシーンが三十郎役の織田さんの最後の撮影でした。

スタッフ全員、そして若侍たちも正に勢揃い。スタッフが「椿三十郎役・織田裕二さん、全て終了しました、お疲れ様でした」の声に他の皆さんからも「お疲れ様でした」の大きな声と共に拍手が送られます。深々と頭を下げる織田さん。
その織田さんに大きな花束をもって歩み寄る森田監督。ガッチリと握手のあとは、抱き合うふたり
稽古をふくめ四ヶ月近く闘ってきたふたり。森田監督は、(森田監督が巻紙を出します、それを見守る織田さん)とっておきの演出を用意していました。
その巻紙を読む森田監督。そして神妙な面持ちの織田さん。

(監督)それでは読ませていただきます。血判状、(ここで周りスタッフたちからもどよめきの声、花束を手にした織田さんも、ウオォッ!の声)貴殿は、「椿三十郎」撮影にあたり、真摯な姿勢と情熱、スタッフ・キャストに対する温かい気遣いをもって、三十郎役を全うされました。死ぬも生きるも我々74人。(このあたりで織田さんの周りからフラッシュがイッパイ)今後も貴殿の熱演に応えるべく、素晴らしい映画の完成と大ヒットを目指し、全力投球することを血判をもってここに誓います。あとはこのメンバーが(と、森田監督、スタッフたちの方に向き直って)全部血判を押しております。(ここでも織田さん、言葉にならない声を発しています。そして巻紙をぜ〜〜んぶ、延ばして森田監督を筆頭に皆さんのお名前、そしてその下に血判が・・・ そして巻紙の一番最後に、「織田裕二殿」の文字)」

ありがとうございます。こぉんな、初めてです。(ご自分の胸あたりをさすりながら)ビックリした。 皆さん、最初から凄くプレッシャーと闘いながら、でも、いつの間にか監督のもと、えー、森田監督作品「椿三十郎」が、完成すると思います。えー、ほんとに(左手で巻紙をもち、ちょっぴりうつむき加減の織田さん)なんともいえない(このあたりで顔をあげ皆さんの方を見渡す感じ)今、幸せな気分です。(ここで森田監督が映ります)まだ撮影は残ってると思うんで、是非いないところも、えー、頑張ってください。 あばよ!(この最後の「あばよ」は三十郎の口調で、そして今度は右手に巻紙、左手に花束をもって)」
そぉ言って織田さんは、スタッフからの指笛や、大きな拍手、そして森田監督も満足げな表情でした、そんなたくさんのスタッフが見守るなか、撮影現場を後にします。


▼ 森田芳光監督の挑戦 〜若侍の成長〜

森田監督は、主役が(このあたりで画面は黒澤版[シーン49]の映像が)クランクアップした後に若侍たちにとって最も重要なシーンが撮影できるようにスケジュールを組んでいました。 黒澤監督はあまりカットを割らずに速いテンポで意見をぶつけさせ、一気に見せています。

画面は変わって、森田版の若侍たちが一同座っている状態からの撮影シーン。森田監督が見守るなか三十郎を信じるべきか否か、言葉が激しくぶつかり合うこの場面。

今日はみなさんの一番大事なところなので(相手の)見方を作っていきますので・・・ そして森田監督、若侍のひとりひとりの特徴などを作るべく演技指導が若侍ひとりひとりが一瞬の間に目線や表情を身振り手振りからその個性を表現しなければなりません。

若侍役を演じた俳優たちのインタヴューから: 人が喋っているときにどぉいぅ反応をしているのか、という受けの芝居がみえてこない、という話や、演じるにあたりの心や立ち居振る舞いが大切、そのあたりの指導があったそうです。

 

若侍たちに指導をしている森田監督が映り、セットのなかで江戸時代にさかのぼり、若侍になりきる事の難しさと面白さ。 敵を倒すという意味で(9人は)一緒であって考え方は違うからな。心はひとつなんだよ、考え方が二つあるんだよ。 黒澤映画を教科書にして撮影をするという森田さんの考えは、若い俳優たちの心にしっかりと根をおろしたようです。

若侍たちの一番の見せ場なんで、ひとりひとりの個性と集団の、三十郎の事をよく思ってるものと悪く思ってるものとの駆け引きですから。それを面白おかしく出せればいいかな、と思ってるんです。

そして出来上がったシーンが流れます。
皆さん、セリフを喋っていない若侍にもご注目。

若侍役のひとり井坂伊織役・伊織姿の松山ケンイチさん:「若侍のもめるシーンがあるんですけども、(ついさっき映像で流れたシーンのこと)あそこは僕のなかで一番大変なシーンだと思ってやってたんですけども・・・ そこで僕は実感したんですよね若侍の9人がひとりひとり、自分の役を本当につかむ、つかんでやっているという事。すごく印象的でした、面白かったです。

インタヴュー、私服姿の一太郎くん: 小さいころから反骨精神が強い自分だった、その素がでて、あの表情(何かとつっかかる役どころで口をとがらせる特徴のある若侍)になったんだと。森田監督は、もっと前に出せ、前にみたいなことだったので、あぁいう感じになりました。

僕はうまくセリフを喋るとか、発声がうまいとかは二の次であって、一番は人間的な頭の良さであり、柔軟さだと思うんですよ。それが僕は役者にとって大事な事だと思うし。つまり日々生きることが大事であって、練習することではないっていうようなね、そぉ思うんですけど。だからそぉいぅ意味では、その色合いっていうのかな、赤選んで、黄色選んで青選んで、とか、そぉいぅひとつの9人の色合い。それを混ぜ合わすとどぉいぅ形になって三十郎といくかっていう。それはもぉ大変でしたね。でもそれだけに決まったあの9人に関して自信ありますけどね。


画面は一変して、香川県高松市が映ります。
去年12月1日、撮影スタッフは香川県高松市に向かいました。高松城・被雲閣(ここで被雲閣の映像に)の一室で最後の撮影が行われました。

城代家老・袴田役の藤田まことさん、と家老の妻・中村玉緒さんに演技指導している森田監督。
森田監督にとって「椿三十郎」は、23本目の映画となります。これまで撮影した作品のおよそ8割で、脚本も自ら書いていました。
(このあたりから、若侍たちも登場)しかし今回は考えた末、黒澤監督が書いた脚本のまま、リメイクに挑戦することにしました。常に黒澤監督と比べられることを意識し、その重圧はこれまで味わうことのないものでした。

助けられた城代家老と、奥方が上座。そしてこの2人を軸としてたてに2列で若侍たちが並び、皆の前に膳が配置された画での撮影。
有名なラストの決闘シーン直前のこの場面。城代家老のひと言に思わず笑がこぼれるシーンです。

このシーンの撮影が、どぉやら最終撮影だったようです。スタッフの「若侍の皆さん、全て終了しました、お疲れ様でした」の声と共に温かな拍手が若侍たちを包みます。
シーンの数は全部で107。ひとつひとつのシーンで黒澤版と何を変えるのか、変えるならばどぉ変えるのか。 若侍ひとりひとりが森田監督と握手を交わします。俳優、スタッフと共に闘いぬいた3ヶ月の撮影でした。 森田監督を囲み、若侍たちがひとつの写真に収まります。達成感を味わった若侍ひとりひとりが大きく成長した瞬間でしょう。

撮影終了のとき、森田監督からひとりひとりに贈り物がありました。森田監督から白の扇子にひと言(それぞれの役柄でのセリフのひとつ)が添えられたものです。


▼ 森田芳光監督の挑戦 〜音をつくる〜

年があけた2月、黒澤明監督への挑戦は未だ続きます。 東宝サウンドスタジオへ入っていく森田監督。 全ての映像に音をつける作業が始まりました。

ダビング初日、撮影と同じように緊張します。僕も仕上げっていうのは大好きだし、映画が大きく変わることが出来るんですね、これだけでも。僕は(こぉして)喋ってますけど、(音響スタッフの)みんなは緊張してると思いますよ。

ダビング作業とは撮影現場で収録された音やセリフを効果音などを加えてリアルで臨場感のあるシーンに作り上げる作業です。

1カット1カット、どんな音が相応しいかチェックをする森田監督。(映像を見つめる森田監督)この場面は、監督が最も気にかけていたシーンのひとつです。
(黒澤版の映像が流れ、同じシーンの森田版の映像が流れます)
主役が異なれば、音のつき方も変わるのが当たり前。森田さんは織田裕二さんの殺陣にどのような音をつけるのでしょうか。

スタッフが色々な生地をてにしている映像が流れ、まず刀で切るときの素材を作ります。こればかりは昔ながらの手づくりの作業です。
(スタッフ2人が、1枚1枚の布をピィンと張り、刀で突き刺す作業が繰り返される映像)
たくさんの布を用意し、刀を突き刺した音、切り裂く音などを収録していきます。 ブスッという音や、シャッという音など・・・

森田版「椿三十郎」音響効果担当の伊藤さん 「今回は、立ち回りの音は原作の黒澤さんの音とは違う音を作ってくれっていうのが第一の注文でありまして・・・ 人を斬ったりするところは、肉っぽい音はやめようか、という感じですかね。着物を羽織ってるわけだから、その着物が切れるみたいなことで表現できれば、っていうふうに今は感じてますけど」

ここで織田三十郎が斬っていくシーンの映像が流れます、森田監督とはこのシーンを現代的なリアリティに溢れたものにしたいと考えていました。

そして音響スタジオ内の映像、音のついた殺陣をみた監督、さらに細かく注文をつけていきます。 (監督)たたくやつあるじゃない、骨が崩れる音、一発目ぽぉんと脅かした方がいいと思うよ。若侍たちの人数の減り方も、最初はもっとわぁーってしてていいんじゃない。

森田監督が、殺陣でこだわったポイントです。@人数の減り方を音で表現する、A三十郎の心臓の鼓動の音を入れる、B映像にはありませんが、骨の砕ける音などを入れる。

僕は時代劇を見てて、自分がもし時代劇を撮ることがあったら絶対やってやろうと思ってた事があるんですよ。それはひとつは、斬り方に個性っていうか、その主人公がどぉいぅ斬り方をするか、それからどぉいぅ戦法でいくのか、そぉいぅ仕草をみせたい、戦法というものをはっきり見せたい。もぉひとつは、刀で人を斬るっていう事は疲れるんじゃないか。その疲れっていうものがでないと、何人斬ったとか、いえないんじゃないか。その疲れをどぉやって克服していって、斬っていくかっていうことです。疲れの表情とか、疲れに対してどぉやって自分が対処するかっていうことをみせないと、何十人斬ったっていうのは面白くないんじゃないか。

音響効果の伊藤さんは、最新の音響システムで音を組み合わせていきます。 (伊藤さん)これは骨だけの音、こぉいぅ音・・・ これに刀をふる音、布を切り裂く音などを組み合わせます。次は心臓の音です、鼓動のスピードを変えることで三十郎の疲れを表現します。

森田版「椿三十郎」音響効果担当の伊藤さん 「10日間ぐらいかかってますね、要するにこの立ち回りのシーンだけにも」
そして出来上がった音が織田三十郎の立ち回りの映像ともども流れます。
映画は大きな技術革新を遂げました。しかし、熱い思いがなければ映画は生き生きしないと森田さんは考えます。

画面は変わって、音響スタジオの中、森田監督を先頭にスタッフが手拍子をしたりの映像。
森田監督、音の仕上げでもひらめきを見せました。そしてダミ声やらで、ちょっぴり酔っ払っているような雰囲気の歌をうたっている森田監督とスタッフたち。いったい何をしていると思います?

森田版「椿三十郎」の映像が流れます。
この音が実際に使われた場面です。 部屋の奥から聞こえてくる酔った武士たちの歌声。

また画面はかわり、音響スタジオ内で歌っている監督とスタッフたち。
この歌を森田監督はスタッフと一緒に作ったのです。

森田版「椿三十郎」監督助手の清水さん 「実際当時の、江戸時代の武士が歌っていた歌っていうのは殆ど分からないんです、実は。規律正しい生活っていうのは文献が残っているんですけど、当時どんな歌を普段歌っていたっていうのは分からなくて、結構調べてたんですけど。そこで監督が、じゃぁ俺が作る!っていうふうに言ってくださって。この歌、実は監督が作詞・作曲してます」 側にいたスタッフの1人がダメだよ、それ言っちゃぁ、とも(笑)

画面はかわりブルーのイルミネーションに彩られた六本木、画面の奥にはライトアップされた東京タワーが見えます。
森田監督といえば、実験性に富んだ音楽を好むことで知られています。

どこかのスタジオの中、オーケストラ団員の皆さんたちがたくさん。
音楽を担当する大島ミチルさんは監督と組むのが5回目です。今回、森田監督からの注文は意外なものでした。メジャー・コードで複雑な転調をしないでストレートな音楽。

音楽担当の大島ミチルさん 「今回やはり黒澤監督のリメイク作品ということもあって、どぉいぅふうにやっても必ず前作と比べられるだろうと。だからスタッフは全力を尽くそうと、いうふうな最初に言われた。本当にそぉだなぁと思ったので、本当にひとつの音符も気を抜かないでかいたっていう感じです。

そのスタジオに森田監督が・・・
45年前の黒澤版では西洋と日本の打楽器を組み合わせて斬新な映画音楽が生まれました。
ここでオーケストラ団員の皆さんに挨拶する森田監督。(監督)「椿三十郎」といえば皆さんの大先輩であります佐藤勝(さとうまさる)さんが音楽監督をやりまして、それに対して今回大島ミチルさんが佐藤勝さんになんとか近づき、また超えようとしておりますので、みなさまの力を借りて是非、佐藤勝さんの音楽以上のものを作りたいと思っておりますので、宜しくお願いします(ここで深々と頭を下げる森田監督)

そして、大島さんが作った音楽を大島さんの指揮のもと演奏する団員のみなさん。
黒澤監督の日本の監督による初めての本格的なリメイク。
ガラス越しに見守る森田監督たち。
音楽の完成とともに森田監督の挑戦も幕が降ります。
音楽が流れるなか、今日オンエアされた映像の部分部分が流れます
黒澤映画は日本映画の歴史そのものだ、と語り続けた森田監督。黒澤映画の完成度ゆえに、今回の試みは何度となく無謀と(このあたりで、画面には '森田版 椿三十郎' の横断幕のもと、キャスト、スタッフ全員の1ショットが映ります)揶揄されました。森田監督自身は今、どぉ考えているのでしょうか。

今ですか? 今は満足してますよ。ただ始まる前は、自分では自信があったんですけど、絶対に斜に構えて観る人が専門化にはたくさんいると思いましたね。黒澤監督に対して何やってんだ、みたいな。でも、時代とともに映画っていうのはあるし、それで歴史もあっての今だから。それを敢えて自分が犠牲になって、どんな形で言われるか分かんないけど、チャレンジしたことは自分は意義あることだと思います。

画面は、黒澤版「椿三十郎」の最後、決闘場面へ向かう若侍たちの映像。
番組もそろそろエンディング。何か忘れていませんか? そぉ、椿三十郎といえば、ラストの決闘シーン。45年後の今も映画ファンの脳裏に焼きついています。

画面には、原っぱのような景色に車が数台止めてある、そんな映像。
今回、森田監督は黒澤版の撮影現場を探し出し、全く同じ場所で撮影に臨みました。台本にはこぉ書かれています。'これからの二人の決闘は、とても筆では書けない'。
森田監督と打ち合わせる織田三十郎。
>森田監督の大いなる挑戦は、どのような演出を生み出し(このあたりで、豊川さんも)私たちの心に何をもたらすのでしょうか。

織田三十郎と豊川半兵衛が、二人向かい合っての図。
ここで、カット!の声がかかり、画面は一瞬にしてセピア色に。それで番組はお終い。



黒澤版「椿三十郎」を知っている方も、もちろん森田版「椿三十郎」で初めて「三十郎」を知る方にも・・・
1人でも多くの方々に映画作りの醍醐味を伝えたい、そんなメイキングの長編でした。

また、素人にも映画制作の一端を垣間見ることができた大変興味深い番組でした。

森田監督の切なる熱い思い、また織田さんと共に闘ってきた同志としての息遣いも伝わってきました。
どぉして森田監督が織田裕二さんを指名したのか、そして、その森田監督の思いをシッカリと受け止め「椿三十郎」を演じきった織田さん、そして若侍たちをはじめ、多くのスタッフとのチームワークなどなど・・・。

本編を観るときには、この番組を観たことで今までよりも尚いっそう、画面の隅々、そして喋っている人ではない人たちの一人一人の表情、音楽・・
今日紹介された部分だけではありませんが、キャストは勿論、スタッフの皆さんたちの思いが結集してひとつの大きなスクリーンに息遣いとして伝わることだと思います。
そんな部分にまで目を向けて拝見したい、そぉいぅ想いが強くなりました。

今までにも増して何度も何度も劇場へ足を運び、そしてDVD化の折には是非に織田さんの新たなる挑戦の1作品として所持したい、今からそんな思いに駆られています。



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